崇仁協議会の主張及び国の反論より
| ・昭和63年8月8日、午前10時、崇仁地区住民(110人)を原告団として、国、京都市に対し慰謝料請求(1日1円請求)を京都地方裁判所に提訴。 ・市の進めてきた住宅改良事業は、住民の意思を無視したものであり、そのため計画の進展は望めず、またこれを継続することが差別の固定化であると認識すべきであるのに、これを見過ごし、崇仁地区住民(原告)に損害を与えた。よって、提訴日より同和地区指定が取り消されるまで1日1円の慰謝料を請求する。 ・公判では崇仁地区における施策の挫折、原告らの権利の侵害と被害者、住宅改良地区指定の違法性、地区指定による個人財産の侵害、改良住宅による「同和」固定化の誤り、地区指定を撤廃し、立地条件を生かした第三セクター方式による環境改善と、町の活性化を図る必要があることを強く述べた。 ・平成元年8月8日、第二次訴訟において原告人が238人増え、計449人となった。 ・現在の崇仁地区には密集した住宅の中に点々とした小さな空き地がある。高さ2メートルほどのフェンスで囲まれている。その鍵は錆びている。これは、市が買収したものの利用できない土地で、行政不信のシンボルでもある。昭和60年の第4次地区指定では、住民の土地売却拒否にあい、事業は完全にストップした。これは、完全な改良住宅政策の行き詰まりである。 崇仁地区の過疎化が進む理由 ・昭和35年より始まった住宅改良法による京都市の住宅改良事業が原因の1つである。京都市は崇仁地区を改良地区に指定し、改良住宅の建設をはじめた。指定といっても地区全部を同時に指定するわけではなかった。昭和35年から60年にかけて、5回にわたって指定し、改良住宅を建設してきた。 その方法は、地区内の土地・家屋を周辺の一般地区より安い価格で買収し、それを取り壊し更地として中層の改良住宅を建てるというものだ。入居条件は土地家屋を売却した人だけ、しかも一代限りである。入居者が死亡したり転居した場合、当然空室となる。一般の人は入居できないので、空き室は増える一方だ。 居住環境もまた問題があった。5階建てでエレベーターがなく、4〜5階に住んでいる老人は日常の生活が大変である。また部屋は狭く浴室がない。狭さに耐えかね自分で増築すれば違法建築として即時撤去を命じられる。法的には知事の許可があれば認められるが、事前審査にあたる京都市が握りつぶすため実質的には認められないということになる。 指定区域内では家屋や店舗の新築はもちろん増改築も一切まかりならない。周辺の商店街が活況を呈しているのに、地区内の商店だけは客が遠のき寂れる一方だ。過疎化の根源はここにある。 ・同和という名称を固定化することは、明治の頃に平民と新平民によって差別されたように、名称こそ違うが差別をいつまでも温存することである。真の解放は同和そのものを無くして普通の人々と混住することであり交流である。我々は、同和地区を固定化し、それによって国や自治体から補助金を取るやり方に同意できない。 崇仁協議会の発足 「この住宅に住む権利を息子に譲りたいと思うのです。でも、役所の人は、それはできないと言います。私は、自分の住んでいた家を売ってここに入ったのです。それも、今から考えるとごく僅かなお金でした。入るとき、役所の人は何も教えてくれませんでしたので、私は自分が死ねば当然息子夫婦が移り住めるものと思っていました。息子夫婦は、五条で間借り生活をしています。私が死んだ後、息子夫婦が住めるよう役所と話し合ってくれませんか」 これは、ある老母の手紙である。 ・結果的に改良住宅は同和のシンボルとなった。まるで当局の基本姿勢が「封じ込め」であったかのようである。これは、京都市が行政だけで事を進めようとしたがための失敗である。地域住民の理解と、企業の賛同、国・府・市の行政見直しと三者の力を結集してこそ可能となる。 ・改良住宅も、昭和35年頃の住宅事情が悪いときには歓迎されたのは事実であるが、それから数十年を経て、社会条件、経済条件がまったく違う現在、依然として同じような政策が進められている。住民の意思を無視して建て続けるというのは異常というしかない。 ・現在、崇仁地区では住民自身が自分達の立場から線引きを止めてくれと言っている。市が踏み切れば国はこれを認めるはずだ。民間企業は、どれほど立地条件が良くとも同和地区に指定され市と住民がゴタゴタしているところへは進出して来ない。行政と住民が一体となって都市開発ができるという体勢ができたとき、地域活性化は一気に進むだろう。 ・崇仁地区にはアートゾーンを作るべきである。不思議なことに、音楽でも美術でも、新しいものは雑然とした場所から生まれてくる。なぜならば、そこには自由があるからだ。 ・高瀬川は地区の中を蛇行している。地区内での長さは350メートルから400メートルほど。これは、わが国の標準的な商店街の長さとほぼ一致している。しかも川沿いは歩きやすい。高瀬川を生かせば100から150ぐらいの商業施設が生まれるだろう。同地区の街づくりはウォータープロムナード(散歩道)からスタートするのが効果的である。 ・同時に、周辺には優良住宅を作る必要がある。商業施設の誘致と快適な住宅建設は車の両輪であり、これに伴い雇用問題も解決してくる。街づくり、住宅づくり、仕事づくりは三位一体のものでなくてはならない。 ・第一ステップ=フリースクエア(人が集まる広場) ・第二ステップ=コミュニケーション(情報・通信) ・第三ステップ=アクション(消費・遊び) ・第四ステップ=アート(文化発信) ・第五ゾーン=ドラマ(生活) このように、新しい町の創出においては全体の将来像をデザインして進めなければならない。雇用問題も含めて色々な課題を1つずつクリアしていく上で我々は「うず」を理念にした。 この地区には歴史的に見ても色々なしがらみがある。その色々なものを、中だけでかき回しても何も生まれない。周囲を巻き込んで新しいものを入れ、あるいは中から外へ飛び出す「うず」によって躍動感のあるダイナミックな街が生まれるはずだ。様々な人が出会い、交流する、それが街である。 被告「国」の準備書面から「反論」を抜粋 平成元年7月10日付け 京都地方裁判所・第六民事部提出 五 原告らの主張に対する反論 1 原告らは、被告国の責任について、 (1)建設大臣は、被告京都市の申し出により、改良地区の指定を行い、被告京都市が策定した事業計画を認可し、これに基づき、被告京都市は、国の補助を受けて改良事業を施行してきた。 (2)右改良事業は、遅くとも昭和57年頃から殆ど進展をみておらず、改良法を適用して環境整備を行うことができない事態に陥っている。 (3)従って建設大臣は、被告京都市に対し、 ・その報告、資料の提出を求め、事業の中止に加え、地区指定の取り消しを含む適切な勧告助言を行い、その他必要な措置を命ずるなどして、同和施策の一環としての当該改良事業が適切に運用されるよう努める義務があるにも拘らず、これを怠った過失がある。 旨、主張する。 しかしながら、右主張は以下に述べるとおり失当である。 (1)建設大臣の本件事業における手続きについて 本件事業に係る改良地区の指定及び事業計画(変更を含む)の認可については、前記4に述べたとおり法令に基づき適法かつ適正に行われており、何ら違法性はない。 (2)本件事業の進捗状況について そもそも改良事業は、不良住宅を除去し健全な住宅地区を形成するという事業の性格上、建物、土地等を買収される地権者等関係権利者の理解と協力の下に、事業の進捗が図られるものであり、土地収用法に基づく土地等の収用も可能な事業とはなっているが、施行者は、極力任意買収によって円滑な事業進捗を図るのが通例である。従って、個々の事業については、様々な事由により結果的に完了まで相当の期間を要することも少なくないのである。 本件事業については昭和35年度より順次実施されているところであるが、そのうち崇仁住宅地区改良事業、崇仁北部第一住宅地区改良事業及び崇仁北部第二住宅地区改良事業については、本準備書面の前記4及び被告京都市が平成元年5月15日付け準備書面で示したとおり、いずれも事業の最終段階にかかっているところであり、崇仁北部第三住宅地区改良事業及び崇仁北部第四住宅地区改良事業は、事業計画が認可されてからそれぞれ四年半、二年半を経過したに過ぎず、また、その進捗状況は、被告京都市が平成元年5月15日付け準備書面で示したとおり着実な進捗をみせているところである。 従って「改良法を適用して環境整備を行うことができない事態に至っている」とする原告らの主張は何ら根拠のないものである。 (3)国の指導について 建設大臣は、施行者等が行った処分または工事が住宅地区改良法等に違反していると認められる場合に、改良事業の適正な施策を確保するため必要な限度において、処分の取り消し、工事の中止等必要な措置を命ずることができ、また、都道府県または市町村に対し改良事業の施行等に関し、この法律の施行のため必要な限度において報告、資料の提出を求め、または改良事業の施行の進捗を図る等のため必要な勧告、助言若しくは援助することができることとされている。 これらは、いずれも建設大臣の自由裁量に係るものであるが、法33条の措置は住宅改良法等の法令違反を前提としたものであり、また、法34条の勧告助言は事業の促進を図ることを目的としたものである。 本件事業については前記4で詳述したように適法かつ適正に行われているものであるから、建設大臣は被告京都市に対し、そもそも法33条に基づく措置を命ずることができるものではないし、また、本件事業が着実に進捗していること前記のとおりであるから、法34条に基づき「事業の中止に加え、地区指定の取り消し」を前提とする勧告助言を行うこともあり得ないところである。 2 地域改善対策(同和対策)としての本件事業について 被告国に対する主張では必ずしも明示されていないが、原告らは、本件事業の継続等が差別の固定化、再生産を招いていると繰り返し主張しているので、この点について少し反論する。 そもそも改良事業は不良住宅が密集する地区の環境の整備改善を図ることを目的として行われるものであり、改良地区の指定用件に該当する地区において広範に行われてきた事業である。改良事業は、同和地区内の住環境の改善を必要とする区域における事業手法としても大きな役割を果たしてきたところであり、地域改善対策事業として行われるについては財政上の特別措置も講じられている。 本件事業についても崇仁地区の住環境の改善を目的として行われているものであり、この事業の実施を通じて、地域改善対策の観点からの差別解消に寄与しようとするものである。従って、本件事業の継続等が差別の固定化、再生産を招いている旨の原告らの主張が失当であることは明らかである。
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